1. 「似合う髪型」って、実は人それぞれ違う。
「似合う髪型にしたいんです」
美容室でこの言葉を聞かない日はないほど、多くのお客様が口にされます。
でも、“似合う”という言葉の中身はとても曖昧で、人によって全く違います。
顔立ちや骨格、髪質といった外見的な要素だけで決まるものではありません。
その人のライフスタイル・性格・ファッションの方向性・仕事環境・年齢による変化など、
あらゆる要素が重なって「その人らしさ」が形になります。
たとえば、
• 朝のスタイリング時間が5分しか取れない方
• 小さなお子さんがいて、ドライヤーすらゆっくりかけられない方
• 毎朝コテやアイロンを使って、ファッションを楽しむ時間を大切にしている方
この3人が同じ「小顔に見せたい」という希望を持っていたとしても、
提案するスタイルは全く異なります。
生活リズムや“どんな自分でいたいか”によって、
「似合う」の方向性そのものが変わるからです。
また、同じ方でも、季節やライフステージの変化によって“似合う”は進化します。
たとえば、社会人になって清潔感を重視するようになったり、
その都度、“今の自分に似合う髪”をアップデートすることが大切です。
私は、そうした**「その人の今に寄り添うデザイン」**こそが、
本当の意味での“似合わせ”だと考えています。
“似合う髪型”とは、鏡の前だけで完結するものではなく、
その人の毎日の動きや表情、空気感に自然に溶け込むスタイルのこと。
だからこそ、美容師の仕事は「髪を切る」こと以上に、
その人の暮らしをデザインすることだと思っています。

2. 骨格・髪質から考える「似合わせの基礎」
カットをする上で欠かせないのが、骨格と髪質の分析です。
これは**「似合わせの設計図」**のようなもの。
● 骨格
• 丸顔の方 → 縦ラインを強調して、すっきり見せるレイヤー配置
• 面長の方 → 横のボリュームでバランスを整えるミディアムやショート
• えら張り → 前髪やフェイスラインの毛流れで柔らかさをプラス
骨格に合わせたレイヤーや重さのバランスを整えることで、
小顔効果やリフトアップ効果も自然に演出できます。
● 髪質
• 直毛の方 → 髪のツヤと落ちるラインをいかした正確なカットで、シンプルでも上品にまとまるフォルムに。
• くせ毛の方 → 濡れた時と乾いた時の動きを見極めながら、広がりを抑えて自然に収まる位置で調整します。
• 毛量が多い方 → 内側の質感を整え、軽さを出しながらもパサつかないバランスに。
生えぐせや毛流れを計算したカットラインにすることで、
乾かすだけで自然におさまり、スタイルが長く続く。
それが“扱いやすさ”を生み出す技術だと思っています。

3. 普段の「扱いやすさ」まで考えたデザイン設計
お客様の生活リズムを知らずに、完璧なカットはできません。
たとえば、
「朝はドライヤーだけで仕上げたい」
「湿気が多い日は広がりやすい」
「仕事柄、髪を結ぶことが多い」
「小さなお子さんがいて、自分の髪に時間をかけられない」
こうした“日常のリアル”を理解していないと、
どんなにサロンで綺麗に仕上がっても、翌日から同じスタイルを再現するのは難しくなります。
美容室での仕上がりが100点でも、
毎朝鏡の前で「なんか違う」と感じてしまったら意味がありません。
だからこそ、**「その人がどんな毎日を送っているのか」**を丁寧に聞くことを大切にしています。
髪型は、ライフスタイルの一部。
たとえば、
• 朝の5分でまとまるスタイルがいいのか
• 毎日アイロンを使って仕上げたいのか
• 帽子をよくかぶるのか
• お仕事中に髪を結ぶ機会が多いのか
そういった小さな習慣を踏まえて、
**「その人が一番快適に過ごせるデザイン」**を提案します。
再現性とは、
「乾かすだけで整う」ことだけでなく、
**“その人が自分で続けられる”**という意味でもあります。
日常の中で無理なくキレイを保てるように、
スタイリングの仕方や乾かし方まで含めてお伝えするのも、私たち美容師の大切な役目です。

4. カット技術で叶える「バランス」と「持ち」
カットの精度によって、ヘアスタイルの“持ち”は驚くほど変わります。
• レイヤーの高さや角度
• 重さの位置(ウェイトバランス)
• 毛量調整のバランス
これらがほんの1mm、1°ズレるだけで、
シルエットの印象も、スタイリングのしやすさも変わってしまいます。
たとえば、後頭部の丸みをどこに作るか。
前髪の厚みをどの位置で残すか。
その数ミリの違いが、「顔が小さく見える」「頭の形がきれいに見える」
といった印象を左右します。
また、髪は時間とともに伸びていくもの。
だからこそ、**“今日の仕上がり”ではなく“2ヶ月後のバランス”**まで見据えてカットします。
少し伸びても形が崩れず、自然にまとまる。
それが本当の“カットの持ち”だと考えています。
カットで形を作り、時間が経っても崩れないデザインにする。
そのために、一人ひとりの骨格・毛量・クセ・生活スタイルに合わせて、
「伸びても美しいバランス」を設計することが、プロの技術の本質です。
長く続く似合わせとは、
“その瞬間のきれい”ではなく、“時間とともに馴染む事”。
そんなデザインを常に目指しています。

5. 「似合わせ」はカウンセリングから始まる
どんなに技術があっても、
その人を知らなければ本当の意味で“似合う髪型”はつくれません。
だからこそ、カットの前に何より大切なのが丁寧なカウンセリングです。
「どんな自分に見られたいか」
「どんなシーンで髪をセットすることが多いか」
「これまで好きだった髪型・苦手だった髪型」
こうした会話の中から、お客様自身の“なりたいイメージ”や“本当の悩み”が見えてきます。
たとえば、「ボリュームを減らしたい」と言われても、
実は“広がるのが嫌”なのか“重く見えるのが嫌”なのかで提案は全く変わります。
髪の悩みや理想の背景には、必ずその人の日常・気分・価値観があります。
だから私は、単に“要望を聞く”のではなく、
“どう生きたいか・どんな印象を纏いたいか”まで含めてデザインを考えるようにしています。
カウンセリングは、
美容師とお客様が一緒に“理想を形にしていくための時間”。
お客様の言葉の奥にある想いを汲み取りながら、
プロとして最適なラインや質感を提案していきます。
似合わせは、技術だけで生まれるものではありません。
丁寧なコミュニケーションの中で信頼を築き、
一緒に理想のイメージを形にしていくプロセスそのものが、デザインです。
その過程こそが、美容師として最も大切な時間だと考えます。

6. まとめ:似合わせとは「あなたの毎日に寄り添うデザイン」
カット技術は、単に“髪を切る”ことではありません。
それは、その人の生き方・価値観・時間の流れまでもデザインする仕事だと思っています。
「似合う髪型」とは、
顔立ちや骨格、髪質といった外面的な要素だけで決まるものではなく、
“どんな日常を過ごしているか” “どんな自分でありたいか”
その人自身の想いが反映されたスタイルのこと。
仕事・子育て・趣味・季節の変化――
日々の暮らしの中で、ヘアスタイルは常にアップデートされていきます。
だからこそ私たちは、髪を通してその人の“今”に寄り添い、
“これからの自分”を一緒にデザインしていく存在でありたいと思っています。
美容師として目指しているのは、
“今日だけきれい”ではなく、“時間が経っても似合い続ける髪”。
サロンを出た瞬間の美しさだけでなく、
毎朝のスタイリングやふと鏡を見たときに、
「やっぱりこの髪、好きだな」と思ってもらえることが一番の喜びです。
似合わせとは、外見を変えることではなく、
その人らしさを引き出すための“デザインの言語”。
一人ひとりの魅力に寄り添いながら、
その人の毎日が少しでも軽やかで、自信に満ちたものになるように。
これからも、お客様と一緒に“似合う”を育てていける美容師でありたいと思います。
lyann 表参道 ディレクター 田中誠二

